『腐触』
著 大橋晋也
ただ、佇んでる芋虫の様に…
飛びたい 飛びたい 大きな羽を仰いで
泣きたい 泣きたい 小さな涙を零して
何もかもが腐った街の十字路
とぼとぼ歩く 一人の浮浪者
襤褸を纏い 浅く呼吸をし
この世のすべてを呪っている
その指先でわずかに空に 触れてみる
ひんやり 染み込んで行く空気を 毛穴にまで届かせ
全身に麻酔をかけた様に しびれさせる
少し痛い
俺のいる世界の空は 結構暗い
月はいつも見守っていてくれる
ああ なにか お礼をしなくちゃなぁ
胸の上に十字架を切る
アーメン
路肩
占い師
「よっ」
「ちょっと、見ていかねえかい?」
いぶかしげに疑う 襤褸纏い
「いいから手を出してみな。」
おそるおそる手を差し出す
「いやー、受難の相が出ているね」
「あんた、長生き出来ないよ。」
「こんな、相は滅多と出ないんだが…」
「…」
「アーーーーーーーーーーー」
腐り出す占い師の手
瞬く間に焼けただれていく
手を振り払って その場を立ち去る 襤褸纏い
俺は何もしてない 俺は何もしてない
俺は何もしてない 俺は何もしてない
この月に誓って
愛してると言う感情は 瞬く間に滅び去っていく
それが真理だと 誰が決めた
それが永久不変の真実だと 誰が決めた
嬉しい事と哀しい事は 常に裏表で
楽しい事と苦しい事は 常に裏表で
だから いま 生きていることの意味も
愛されなかった理由も
要は お互い様 だってこと
それとは知りながら 人を恨んでた
僕を憎んでた
いっそ 僕を包む エーテルのスコール
切り刻まれながら 向かい風に さらに 立ち向かう
空の涙がただれ落ちるのと 同じく
この 肌も とけて なだれ落ちてく
僕の悩みはなあに?
人と居る事 人に会う事
人を知る事 人を愛す事
そうさ こういうものは 大抵 日にち薬で
眠ってる間に 洗い落とされるものなのさ
グッドラック
おやすみ
マリア
怪訝に目を開ける
ここはこの世のどこだ
昏い日差しはまぶたの裏側で
老廃物を洗い流す
生きてるよ 生きてるよ
時と共に時も腐って行く
こころって なんだ?
こころは狼だ
愛する事を決めたんだ
ただ 愛すると言う事だけ
辛い出来事は もう思い出したくないよ
「うー」「うーーーーーーーーーーーーーー」
「うあああああああああああああああああ」
むち打ち状態でのたうち回って 嘆きに喘いでる
二酸化炭素が充満している
少なくとも口の中では
ほんとに吐きたいのは 罪の塊
浄罪と言う名の 嗚咽 嘔吐 逆流 血
血で皮膚を洗い流してく
瞳に温かいものが 流れ落ちてくる
いつのことだったろう
私が産まれたのは…
覚えているのは 名前
だけど 言いたくは無い
意識の遠くの方で 微かに 捉えた断片を 握りつぶそうとした
何で? 愛で?
触れたい 触れたい
感じるまま 唄いたい
なんの歌かは知らないが
なんの泡沫かは知らないが
去る 暗黒の季節
来る 晴天の季節
いるよ いる
もう 迷わないで
戦うと決めたんだ
確実に生きて行くと
(おぎゃー おぎゃー)
乳母車の奥から 絞り出される
雄叫び
お母さん お母さん
どこに居るの?
僕のお母さん
多分 ぐるぐる巻きにされてる
多分 僕
そして 知らないうちに 大きくなった
もう どっちかも 判らない
だから おあいこだと思ったよ
そんなときは … 「ごめんね」
これからもよろしくね
ただれるよう ただれるよう
僕の手がただれ落ちるよ
顔が 顔が 溶けて行くよう
これは僕? これは僕? 本当に?
夢でも何でも無いんだね
これは 現 誠の話
誰にも聞かせられない
「はあ、はあ、はあ、はあ」
西へ
青い薔薇畑の中をかいくぐり抜けていく
ぷしゅー ぷち ぷしゅー ちくっ
赤い血が体にへばりついてく
と、同時に薔薇の棘が腐っていく
誰か 誰か 助けて 助けてよ
だって だって 逃げてる訳では無いんだから
!?
マリア?
抱きしめてくれるなら
end.